鮟鱇・続編
冷蔵庫からアレをだしてくれ。アレだ。ナニだよ。早くしてくれ。
調理場でのいつものこと。また始まったかと、
若い者は思っているのだろうが 仕方が無い。物の名前が
出てこない。
歳はとりたくないねえ。もともと出来のよくないところに、
連夜のナニで脳みそがかなり いかれちまっている。
歯がゆいやら情けないやらで 近くの者に 八つ当たり。
連中も「アレ」と言えばわかっている筈だが とぼけていやがる。
ささやかな抵抗てぇやつか。
で、今日は何でしたっけ。。。そうでした、アレのナニでした。
ナニの話のつづきでしたね。
アンコウの続編をお届けします。
■今日の品書き(目次)
【1】アンコウのおすすめ料理
【2】雑炊とおじや
【3】女房詞
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前回は、アンコウの刺身を食べていただいたところで
終わりました。
今日は、そのほかのアンコウ料理をご紹介いたしましょう。
【煮凍り】 にこごり。アンコウを煮て出てきたゼラチンを
利用して、冷まし固めます。ひと口大に切って
お出しします。
【共合え】 身とあん肝をあえます。
【酢の物】 身と皮、それに胃袋を酢味噌で。
【あん肝】 血抜きして晒した肝を15分から20分ほど蒸して
冷ましたもの。ポン酢醤油で。
【あん肝豆腐】あん肝を裏ごしして、玉子と出しを混ぜ蒸し
固めます。
【唐揚げ】 酒、醤油で下味をつけて揚げます。下味なしで
美味出しや加減酢で召し上がっていただくことも。
【てんぷら】 淡白な身ですから、あっさりとした食感の
てんぷらに仕上がります。
【煮物】 蕪や壬生菜など季節の野菜との炊き合わせです。
【寄せ物】 あん肝を含めた7つ道具すべてを細かく切って
蒸しあげます。
ネギ味噌を掛けたり、添えたり。
【焼き物・1】 塩焼きや照り焼きに炙ったあん肝を添えたり、
挟んだり。
【焼き物・2】 ムニエルにしたり、ソテーしたりします。
これにもあん肝を添えます。好評です。
【焼き物・1】 大根とアンコウの鉄板焼き。
人気メニューです。薄味を含ませて炊いた大根を
油焼きします。アンコウの身と肝をソテーします。
これにタレを流しいれ、詰めてソースとします。
どちらかと言うと大根が主役。
【鮟鱇鍋】 前回ごお話いたしましたアンコウの7つ道具すべて
召し上がっていただけます。
アンコウ自体の美味しさをお楽しみいただきたい
ので、手前どもの鍋地(なべじ)は薄味です。
それでも充分、コクも旨みもある鍋になります。
ご希望ございましたら味噌仕立てもいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■味噌仕立てといえば 北茨城・平潟の郷土料理「どぶ汁」が
有名ですね。本来のどぶ汁は水を使わず、肝を炒ったところへ
アンコウと野菜を入れ、これらから出てくる水分で汁に仕立てて
いくものです。
今ではこのような作り方は殆どしていないだろうと思います。
「どぶ汁」という名は残っていますが、実際は出汁を加えて、
あんこう鍋に近い作り方でしょう。
■その どぶ汁風 の作り方、一例。
アンコウの骨と野菜の切り残しに水を加えて昆布をいれ煮る。
これを漉して 出しとします。
その出しに、あん肝、白味噌、田舎味噌、おろしニンニク少し、
豆板醤、酒粕、ミリンを加えて濃い目の汁をつくる。
汁を鍋に入れ、適当な大きさに切って霜ふりしたアンコウを
いれ煮ます。焦げやすいので、出しを適宜足しながら、
煮えたそばから食べてください。
■上の どぶ汁風 を銘銘の器に入れて蒸し上げれば、
焦げ付きの心配も無く、料理らしくなります。
同業の皆様お試しあれ。蒸し上がり際にセリなどを入れたら
いかがでしょう。
■北大路魯山人(1883-1959)が あんこう鍋について記した
文があったはずだと、先日来 探しておりました。
ヤット見つかりました。
魯山人は『星丘』『雅美生活』『陶心雅報』など、
機関紙といいますか会報といいましょうか、小冊子を
次々発行していました。
そのうちのひとつ『独歩』第2号(昭和27年9月刊行)に、
「鮟鱇一夕話」と題して、次の一文があります。
『鮟鱇という魚は、鍋料理にすると、すてきにうまい魚である。
脂肪、ゼラチンに富んでいて、なかなかしゃれた食物である。
ざらにある魚でありながら、鍋料理中もっとも乙なものとされ、
高級層にも下級層にも賞味されている。しかも、それが骨以外
捨てどころの無いという魚で、肉を除いてはことごとく
うまいところだらけである。この点、珍しく雅俗混合の趣味を
有し、味にも、見た目にも、ユーモアたっぷりで、親しめること
、おびただしい。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【2】雑炊とおじや
■鍋の締めは雑炊(ぞうすい)ですね。これを食いたいがために
鍋料理をはじめるという人もいますから。
「雑炊」は当て字で、古くは「増水」ですって。
もともとは穀物の粉を水でかき混ぜ煮立てた熱い吸い物でした。
粥(かゆ)にすることで水分を増すことで 増水 なのでしょう。
「雑炊」ではなく「おじや」がいいとおっしゃる方もおいで
ですが、どのように違うのでしょうか。
板前に「雑炊」と「おじや」の違いを尋ねてみてください。
こんな答えが帰ってくることが多いのでは。
「雑炊」は ご飯を洗ってサラサラにしてから使う。
「おじや」は 洗わずにそのまま入れる。粘り気を重視。
以前は私もそのようにご説明していましたが。。。
「おじや」を辞書で引いてみますと、
「雑炊の女房詞(にょうぼうことば)」と出ています。
(広辞苑、第2版)
あれぇ~。同じことだったのか。アレは俗説だったんでしょうか。
「じや」は煮える音の擬態語(onomatopoeia)だって。
じやじやと時間をかけて煮るから「おじや」なんだって。
女房詞でありますが江戸時代には既に男も「おじや」という
言葉を使っていたようです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【3】女房詞
■女房詞(にょうぼうことば)について、おさらいして
おきましょうか。
室町時代から宮中の女官たちが使っていた、一種の隠語が
始まりですね。多くは衣食に関することです。やがて将軍家に
仕える女性たちに広がり、のちに下々にまで普及しました。
現代の一般語になったものもあります。
「お」を冠する言葉で「おひや(水のこと)」とか
「おでん(田楽)」など。
いわゆる「文字ことば」では「杓文字(しゃもじ)」や
「御目文字(おめもじ)」があります。
「ひもじい」ということばも言葉もそうです。空腹であること
を「ひだるい」と言っていたようです。
これを「文字ことば」にして「ひ文字」。形容詞では
「ひもじい」となるわけです。
そろそろ、ひだるくなってまいりましたか。
あれほどアンコウ料理めしあがったのに。
ではもう少しだけお付き合いいただいて看板といたしましょう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー