唐墨をつくる
いらっしゃいませ。お待ちしておりました。
「粋でいなせな江戸っ子」なんていいますよね。
さっぱりした気性で容姿もよくて。
世辞を言うんじゃない、って。いえ、お客さんの
ことではなくて。
「いなせ」という語の意味です。漢字では「鯔背」と
書きます。
そこで、今日のテーマは「カラスミ」です。
いなせ と カラスミの関係ですか。秋の冷おろし
なんぞを、お召し上がりながら暫らくお付き合いください。
追々ネタがばれてきますから。
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「秋の冷おろし」が出揃ってまいりました。
私のカラスミ作りの季節が今年も到来です。
カラスミはボラ(鯔)の卵巣を塩漬け、塩抜き、
乾燥させて作ります。
築地、魚河岸ではボラの卵巣を「ボラ子」と呼び
今あちこちで見かけます。
2週間前1kg、9000円していました。10日ほど前で
7500円ぐらい。木曜日に6500円になったところで仕入れ、
さらに金曜日は6000円で買いました。
やや大振りなもので、1kg、2腹ぐらいかな。
(卵2本分が1腹。)
約1kgで大きめのカラスミが4本できあがるわけです。
出来合いのカラスミの価格は 国産の良いものでしたら、
この大きさですと1腹1万円以上でしょう。
カラスミは世界中にありまして、
イタリアのボッタルガ(bottarga)や
フランスのブタルグ(boutargue)などがしられています。
台湾産の烏魚子(ウーユイツー)も有名ですし、
スペインから土産に買ってきたこともあります。近頃は
オーストラリアやニュージランド産など割安なものも
でまわっております。
これらは、ボラの卵に限らず、マグロや他の魚の卵も
使います。日本でもサワラや鯛、ボラによく似たメナダなどの
卵でも古くから作られておりました。
今日は私どもの カラスミの造り方 をご披露いたします。
一度 うまく出来れば毎年病みつきになりますよ。
ご友人に差し上げても大変喜ばれます。私なんざ、
作ったものの半分は贈答用になってしまいます。
略奪されるのも含めて。
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今日の品書き(目次)
【1】カラスミについてちょっと
【2】カラスミの造り方 ー あみ亭おやじ流
【3】ボラについて少し
【4】あとがき
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【1】カラスミについてちょっと
日本の三大珍味のひとつとされているカラスミですが、
残り二つは何か。江戸時代から天下の三珍は越前のウニ、
尾張のコノワタ、肥前野母のカラスミということになって
おります。
このカラスミ、古代ローマ時代からあり、ギリシャ、
エジプトでも作られていたそうです。
例のごとくシルクロードを通って9世紀には中国でも
作られていたそうな。
カラスミの語源ですが、「唐の墨」からという、
長崎県野母崎樺島の伝承が有名かつ定説でしょう。
安土桃山時代、天正16年(1588)豊臣秀吉は朝鮮出兵の
ため、肥前の名護屋(なごや)に赴く。
長崎代官、鍋島飛騨守信正は名産、野母のカラスミを献上する。
秀吉は珍味を賞賛し名をたずねると、唐の墨に形が
似ているところからが「唐墨(カラスミ)」と答えたのが
はじまりだとか。
そのとき秀吉が命名したのだという説もあります。
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・居酒屋おやじ流などと大仰ですが、さして代わり映えの
する作り方ではございません。試行錯誤の末、この作り方に
至ったというだけです。
・ご用意いただくものは、
粗塩と脱水シート(商品名ではピチットシートなど)そして
ボラ子。艶がありしっかりしたものを選んでください。
市場に行けない方は魚屋さんに頼んでみたら入手できるかも
しれません。
・卵巣は左右2つの対で、1腹(ひとはら)です。左右は
ボラの身の一部がついたまま繋がって売られていますが、
これは乾燥がおわるまで切り離さずそのままで。
1)先ず、ボラ子の血抜きからはじめます。ここが一番
面倒かつ神経を使うところ。皮が破けぬよう丁寧に
お願いします。
ボラ子の中心に太い血管があります。ごく細い竹串や
針などをさして穴を開け指の腹で血を押し出していく。
細い血管の血も太いほうに指で
誘導して出来るだけ出してください。流水にあてながら
やるといいでしょう。
私は、細い血管にも針を打ち、水にさらして血抜きを
します。針打ちは、なれていない方にはお勧めしません。
皮を破くことになりかねません。
2)次に塩漬け。ボラ子全体にたっぷり塩をまぶしつけて
(前号、ベタ塩)、
底が平らなザルに並べます。ザルの下には水受け用に
バットを敷いて、
ラップフィルムで覆って冷蔵庫へ。かなり水が出ますので
ザルと水受けの間に
適当なカイモノ(割り箸を井桁にして挟むとか)が有ったほう
がいいでしょう。出てきた水はすててください。
・塩漬けの期間ですが、私は5日から1週間です。
品質さえよければ1日でいいという板前さんもいます。
臭みを抜くことも塩漬けの目的のひとつですから、
3日以上をお勧めしておきます。
3)仮に1週間の塩漬けとしまして、今度は同じく1週間の
塩ぬきをします。冷蔵庫から出したボラ子に残っている塩を
水で洗い流してください。
水気をふき取りましたらフタつきの容器に並べ、
キッチンペーパーなどで覆って日本酒を被るくらいまで
注ぎいれます。フタをして再び冷蔵庫で1週間。途中で
いちど上下を返したほうが酒のまわりがいいかもしれません。
4)愈々干す作業に移ります。どのくらいの期間干すのかも、
意見の分かれるところ。卵のプチプチ感が残るくらいが
いいという方と、しっかり干したネットリ感こそカラスミの
持ち味というご意見もございます。
ネットリ派の私は長期間干します。味見と称して、
途中で食べ始めることも間々あります。
干し方ですが、通常は天日に7日から10日くらい干します。
しかも2、3時間おきに上下を返しながら。ハエや猫よけの
網をかけて。
排気ガスやカラスのことも考えなければなりません。
で天日干しはあきらめ脱水シートを使うことにしました。
1週間の酒浸しが過ぎ、冷蔵庫から取り出しましたら、
水気(酒気?)をよくふき取ってください。ふき取る前に
焼酎で洗う人もいます、れはカビ防止だそうです。
しっかりふき取りましたら、脱水シートに挟んで冷蔵庫で
一昼夜。さらに脱水シートを取替えもう1日。かなり水分が取れました。
次はバットなどに新たに脱水シートを敷き、その上に
並べ涼しくて風通しのよいところで干します。
遠くから扇風機で風を送ってもいいでしょう。
毎日、数回上下を返してください。途中、脱水シートに
水分がたまるようなことがありましたら取り替えてください。
(ボラ子本体からはもう水分は出ませんでしょう。)
・10日から15日間続けます。
以前はガラス板やアクリル板に挟んで、輪ゴムを
かけたり軽いオモシをのせたりして、平らにしたものですが、
今は形を整える程度にしております。
これらの作業は室内でやっていますが、出来るなら、
1日でも天日にあてたほうがよろしいかと思います。
・10日から15日が経ちました。
・もうボラ子ではありません。カラスミの出来上がりです。
・薄皮をそっと少しだけはがして、薄くスライスして、
味見、、、、もうたまりません。●だあ。
・からすみを使った料理をいろいろお試しください。
そのままカラスミ大根で、白身魚や烏賊の刺身に
挟んだり、酢の物にしたり。和え物でよし、軽く炙って猶よし。
すりおろしてサラダにかけるもよし。火取って茶漬けにしたりと。
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【3】ボラについて少し
ボラ(鯔)についても、 知ったかぶり を少し。
ボラは世界中の温帯、熱帯地域に広く分布する暖海性の
魚です。以前取り上げたスズキと同じく、成長につれ呼び名が
変わっていく出世魚です。
「難波の鯔は伊勢の名吉(みょうきち)」という諺が
あるくらいですから 呼び名は地方によっていろいろありますが、
一般的にはこのように。
・体長2~3cmの稚魚を「ハク」と呼び、5~6cmからの
幼魚を「オボコ」あるいは「スバシリ」と続きます。
世慣れていないことや生娘(きむすめ)を「おぼこ」と
いいますね。うぶこ(産子)の音変化らしいのですが。
・10~20cmで「イナッコ」、20~30cmに育つと「イナ」と
なります。イナは川を遡って汽水域で秋まで過ごす。
冒頭で話しましたが、粋でさっぱりした気性で容姿も
優れた若者を「いなせな兄い」なんて昔はいいました。
最近は聞かないけど。この「いなせ」は「鯔背」で
あるとは既に申しました。
江戸後期、魚河岸の若者たちが結った髷(マゲ)が
ボラの背に似ていることから鯔背銀杏(いなせいちょう)と
言ったそうです。
・秋になると海に戻り、歳を越え2才魚となり翌春の
終わりごろから体長も30cm以上となり「ボラ」と
呼ばれるようになる。
・老成魚は「トド」と称され、80cm~1m近くに
達することも。 「とどのつまり」というたとえは
ここからきているんですな。
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♪ How Long Has This Been Going On
(w)Ira Gershwin (m)George Gershwin
・最初にカラスミを作り始めたのはいつの頃だったか。
もう15年以上まえでしょう。いろいろ試して、
ここ3年ほどはお話しました方法でつくっております。
完成まで1ヶ月間くらいかかりますが。
・言い忘れました。出来上がったカラスミを長く
保存するなら1本ずつラップフィルムに包んで冷凍庫へ。
正月のおせちに使うことも出来ます。
・日本の三珍は先ほど挙げました、世界のそれは、
フォアグラ、キャビア、トリュフということになっていますね。
世界の三大スープって何でしたっけ。
トムヤンクン(タイ)、ブイヤベース(フランス)、
ふかひれスープ(中国)が正解。
ふかひれスープの変わりにロシアのボルシチの場合も
あるそうです。味噌汁は入っておりません。
・小雨ふる中、今朝も魚河岸へ行ったのですがボラ子を
見ませんでしたね。見落としただけかもしれませんが。
まだまだ入荷すると思います。値も、も少しは下がると
思うのですが。
・また お近いうちに。ありがとうございました。