♪梅はさいたか~「お初、徳兵衛」
『おやじのとこの鯛は脂の のりが今ひとつイケねえな。
表通りに出来た新しい店あるだろ。あそこの鯛はプリプリで
脂がのっていて。いいよ。しかも安い。おやじも勉強しないと、
置いてけぼりになっちまうよ。』
「---左様でございますか。
貴重な情報ありがとうございます。」
としか言いようがない。
「あちら様は養殖鯛をお使いですから、
脂は乗っていましょうが、鯛の身のうまさは脂じゃあ
ございませんでしょ。」
なんて、お客様に口答えは出来ないし、よそ様の批判は
もってのほか。お客様には天然ものと養殖ものの違いなど、
能書きは言わないことにしている。
ただ、今のところ、魚介類は養殖物を使わず、天然のものを
何とかやり繰りしている。仕入れ値が張るのが
ちと こまりものだが。
「旬の天然ものをお出しするよう、努めております。
あたしの呆けも天然ですし。」

天然鯛とトンさん(あみ亭8年目の板前)
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◎今日の品書き(目次)◎
【1】鯛は淡白が持ち味
【2】「梅は咲いたか~曽根崎心中」
【3】女が先か男が先か
【4】あとがき
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【1】鯛は淡白が持ち味
色、匂い、脂過多、身の締まり、味の違いなど
養殖ものを悪く言うのは簡単だが、事はそう単純なものでは
ありません。
人間はさまざまなものを食べつくし、絶滅させてきました。
そして、育てることを学び、安定供給へと試行錯誤を
繰り返してきたのです。
養殖による安定供給こそが天然ものの高騰を少しは
抑えていることにもなるのかもしれません。
エサや環境や運動量などを改善して、少しでも品質の
良いものにという努力は続けられているはずです。
ただ、あみ亭おやじが言いたいことは、魚は新鮮で
脂が乗っていればいい、とばかりはいえないのだ
ということ。
ブリやカツオやマグロのような回遊魚は脂たっぷりが
良いのだろうが、
(春から夏の脂の少ない身が締まったカツオなんかも
棄てがたいよ。)
大陸棚にゆったりと棲んでいて、甲殻類や貝類をエサに
している鯛なんかは 淡白な味が持ち味なんだよね。
新しい店もいいけど、たまにはウチにきて天然ものを
喰わないと、本当の味を忘れちまうよ。
余計なこと言っちゃった。取り消します。
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【2】「梅は咲いたか~曽根崎心中」
ショーバイなんかをやっていますと、よきにつけ悪しきにつけ、
季節の先取りが習性となっておりまして、
早くも 品書きには筍や春の山菜が並んでおります。
先ほどは、天然ものの鯛なんて威張っておりましたが、
山菜のほうは不本意ながら、栽培もの。
4月に入ったら、天然ものを送ってもらったり、時には山へ
採りに行くこともあるのですが。
香りも味も、まったくちがいますね、天然のものは。
タラの芽、コゴミ、コシアブラ、、。待ち遠しいですな。
早咲きの梅のつぼみが まだ固いというのに。気が早いものです。
♪梅は咲いたか/ 桜はまだかいな /柳ゃなよなよ風次第
/山吹ゃ浮気で 色ばっかり/ しょんがいな♪(端唄)
梅の花といえば、私は近松の「曽根崎心中」を連想して
しまうのです。どういう関わりがあるのか、とお尋ねですか。
良くぞ聞いてくださいました。お話しましょう。
例によって、端折りますからね。
それでも、お前の話は長すぎる、と言われるのですから。
■時は元禄16年、4月の7日。大阪は曽根崎、
露天神社(つゆてんじんじゃ)の森の中。事件が起こります。
堂島新地天満屋の遊女「お初」と醤油問屋、内本町平野屋の
手代「徳兵衛」。添い遂げられぬ仲、二人の心中です。
この事件を題材に脚色したのが
近松門左衛門(1653~1724)の
浄瑠璃、「曽根崎心中」。事件から ひと月後の5月7日、
竹本座で上演されるや、大評判。庶民を主人公とした、
「世話物」の始まりでもありました。
■では、「お初、徳兵衛」道行の名調子。
音読してください。 プリーズ、リピート アフター ミー。
「この世のなごり 夜もなごり
死にに行く身をたとふれば、
あだしが原の道の霜
一足づつに消えて行く
夢の夢こそあはれなれ
あれ数ふれば暁の
七つの時が六つ鳴りて
残る一つが今生(こんじょう)の
鐘の響きの聞き納め
寂滅為楽(じゃくめつ いらく)と響くなりーー」
■どこが梅と関わりがあるのだとおっしゃるのですか。
種明かしとまいりましょう。
梅といえば、菅原道真(845-903)ですね。菅公は筑紫、
大宰府へ
左遷配流されるのはご存知のとおり。
途中、大阪は福島に船泊まりされたそうな。その折に、
近くの大融寺へ参拝の道すがら、霧で露が多かったことと、
自身の胸の内を歌に託して、
詠む。
「露と散る涙に袖は朽ちにけり 都のことを思い出づれば」
この故事にちなんで名付けられたのが「露天神社」。
「曽根崎心中」の現場。よって 別名「お初神社」。
今では寧ろこちらの名のほうで通っています。
■まとめますよ。梅といえば、菅公。露天神社は、
菅公に縁(ゆかり)あり、そしてそこは、曽根崎心中にも縁あり。
それだけのことでした。すみません。
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【3】女が先か男が先か

先日の日曜、湯島天神(湯島神社)の梅もまだ蕾でした。
「切れるの別れるのって、そんな事は、芸者の時に云うものよ。
……私にゃ死ねと云って下さい。」
『湯島の白梅』の有名な科白(せりふ)ですが、
原作とされる、泉鏡花の『婦系図(おんなけいず)』
(明治40年新聞連載)にはこのシーンはありません。
柳川春葉の脚色で新富座で上演されて、このシーンが評判に
なった後、鏡花は大正3年『湯島の境内』という作品で、
お蔦(おつた)と早瀬の別れの場面を描いています。
早瀬の名は主税(ちから)でしたね。歌謡曲にもあります。
「♪湯島通れば 想い出す お蔦、主税の 心意気 知るや白梅
玉垣に残る二人の 影法師~ ♪」(佐伯孝夫作詞「湯島の白梅」)
「お蔦、主税」 の物語ですね。先ほどの「曽根崎心中」は
「お初、徳兵衛」の道行。
「お夏、清十郎」は井原西鶴の「好色五人女」の
第一話「姿姫路清十郎物語」。
日本の物語では、女が先です。西洋では
「アダムとイヴ」(旧約聖書)
「シーザーとクレオパトラ」(バーナード・ショウ)
「ロミオとジュリエット」(シェイクスピア)
「ポギーとベス」(デゥポーズ・ヘイウオード→G.ガーシュイン)
男が先ですよね。
逆のような気がするのですが。どうでもいい事なんですけど。
そろそろ、お開きの時間になってまいりました。
奥へ引っ込みますよ。
明日は、バレンタイン・デーか。 (それがどうした。)
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【4】あとがき
♪My Funny Valentine (w)Lorenz Hart (m)Richard Rodgers
■前号で、漱石がイイダコ喰いすぎて病院へ、の話
覚えておいでですか。
やはりあの本(半藤 一利・著『漱石俳句探偵帖』角川選書)
に のっていました。176ページあたりだったかな。私のは
見つかりません ので本屋で立ち読みしてまいりました。
■同じく前号。イイダコはイイが詰まったまま丸ごと炊くと
申し上げましたが、
知り合いの板前(ヤツのとこは高級店。値段が)はイイを
丁寧に取り出して別々に調理する方法もやっているとの
ことです。仲間が集まってイイダコ談義に花がさきました。
きっかけを作ってくださいました、飯蛸の産地、大村湾の
Shokoさま、
ありがとうございました。
■鯛のことは、桜鯛の時期になったら鯛礼賛をお届けしよう
と思っていたのですが、お客様から養殖と天然鯛について
話すようご要望がありました。これについて掘り下げて
いくと、課題がいっぱい。よそ様の商いをとやかく
言えませぬし、生簀(いけす)の魚についても触れなければ
なりません。
私のところでも産地直送。これに問題はないのか。
私の手に負えぬ難しいことばかり。
舌足らずでごめんなさい。勉強しておきます。本当に。
また、おちかいうちに。