夏の刺身は 洗い と たたき (後編)

◆夏の刺身は 洗い と たたき (後編)◆
  (2005.7.4のメルマガから)

 言葉や用語の由来は諸説あるものでして、私のような浅学、
知ったかぶりには、何が正解か見極めるのは、たいへん 
難しいものです。

 いや、先週号での話です。ハモの落とし は 
湯に落とすからそう言うのだろう、とお話したんですが、
そのあと 調理場にいても、ふと浮かんだことが頭から
離れぬのです。

 鱧(ハモ)は ご存知のとおり、小骨が多いので骨切りを
してから、調理します。1寸に20くらいの骨切りなんて
いいますが。(1寸≒30mm)

 目的の料理に応じて、骨切りしながら、適する長さに
  切り落としていくわけです。
ねッ。   〔落とし〕が出てまいりましたでしょう。

 湯に落とすから、落し だと思いつづけていたのですが、
もしや。切り落としの   落し で あったのかも。

 関西の方なら常識かもしれません。いづれ、はっきり
させましょう。

 

●きょうの品書き(目次)です。
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【1】刺身 その3 〔たたき〕
   ●鰹(カツオ)は手でたたく
   ●初鰹(ハツガツオ)
   ●江戸の初カツオ

【2】きょうの賄い 〔キュウリのたたき〕
【3】酔中歌(編集後記)
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【1】刺身 その3 〔たたき〕

 たたきといえば、鰹(カツオ)です。鯵(アジ)です。
牛肉です。この3つ、たたき とはいいながら、その調理法は
夫々ちがいます。

 共通点は何かで叩く(たたく)ということ。〔たたく〕は、
動詞ですから、その名詞形が〔たたき〕でしょ。

 すみません、先日、町内の シニアのための語学教室に
参加して以来、文法用語がつい ほとばしるように 
なってしまいまして。

 たたき とは 本来は塩辛(たたき塩辛)のことだそうな。
魚などの材料を細かくたたいた料理を言うんだそうです.


 塩辛は古くは、魚醤(ぎょしょう)と同義語(文法用語がまた)
だと。古くは、どのくらい前なんだと お訊きになるんですか。
 まあ、奈良時代から後でしょ。先を急ぎましょう。
あたしにも都合がありますので。

 魚醤(ぎょしょう)はご存知ですよね。魚介を発酵させて、
できた調味料。秋田は〔しょっつる〕
能登なら〔いしる〕または〔いしり〕。香川で〔いかなご〕。

 〔ナムプラー〕はタイ。〔ニョクマム〕はベトナム。
ラオスでは〔ナムバー〕。〔トッ・クライト〕カンボジア。
〔魚露(ユイルウ)〕中国。ミャンマーなら〔ナムビャエイ〕。
ふうっ。

 アジアだけではありません。紀元前の古代ローマにも
〔ガルム〕という魚醤があったといいますから、おどろき。
アンチョビのソースなんぞは、それの名残りでしょうな。

 お国が違うのですから、それぞれ原材料、手法は
違いましょうが、魚食う国、魚醤ありと、
言えない事もない。(文法語では2重否定)

 たたき とは たたき塩辛の 接頭語であり 
魚醤とも類義語であった。これらの基本単語を 
おさえていただいた上で 次に進みます。
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●鰹(カツオ)は手でたたく
  
 カツオのたたきは、ご存知でしょうが 
おさらいしておきましょう。

 皮のついたまま、節どりしたカツオに金串を打ち、
藁火(わらび)にかざして焼き、冷水にとる。やや厚い刺身に
して薬味や二杯酢あるいは土佐酢などの合わせ酢をかけ、
手でぺたぺた とたたいて味をなじませる。

 それで、たたきと名づけられた。まだ脂の薄いカツオの調理法。
土佐づくりが有名。   おさらいはここまで。

 まあ、こう言っちゃあなんですが、本式に藁火を使う店は
少ないでしょう。それに、手でぺたぺた は 
やっていないのではないかと、おもいますよ。
包丁の腹でたたくことは やるかもしれません。

 むしろ、薬味や合わせ酢を工夫したカツオのたたきが
主流でしょう。それで、昨今は たたくのではなく、土佐酢や
ポン酢醤油などの合わせ酢をかけたものを、たたき とか 
たたき風などとよぶのでしょう。

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●初鰹(ハツガツオ)

先ほども、申しましたように 本来は まだ脂の少ない 
上りカツオの食べ方なんですね。ですから、
初鰹(ハツガツオ)に適しているんです。

 季節は大分過ぎてしまいましたが、初鰹の話をすこし。

 お客さん!初ガツオときますと、必ず出てきますね。
例の俳句。去年も おととしも、おしゃっていましたよ。これ。

 目に青葉 山ほととぎす はつ松魚(かつお)   素堂

それに、あのせりふ。いつもですね。”女房質に入れても・・・”
ってヤツ。カツオ召し上がる度ですね。
江戸っ子じゃないでしょ。ホントは。

あ、怒らないでください。帰っちゃダメですよ。
これからですから、あたしの知ったかぶりは。

 俳人、山口素堂(1642~1716)はこの初ガツオの句で
有名ですが江戸ではなく大阪の人だったそうです。
松尾芭蕉とも親交深かったようです。
 
芭蕉には

 鎌倉を生きて出でけん初がつお    芭蕉

の句があります。江戸に入るカツオは鎌倉沖、相模湾で
とれたってことですね。

 江戸時代、初カツオはいくら したのでしょう。

 江戸の町を、天秤棒かついで〔かっつをー、かっつをー。〕
と売り歩く魚屋が登場するお芝居(歌舞伎)があります。

 〔髪結新三(かみゆいしんざ)〕。お若い方は
ごぞんじありますまい。
知らないからといって、若いとはかぎりませんよ。

 原題を〔梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)〕。
黙阿弥(河竹黙阿弥。1816~1893)の作品。

ですから、主人公は泥棒とか悪党に決まっています。
新三は上総無宿(かずさむしゅく)の入れ墨物です。

 お客さん、眠そうだから、端折っちゃいますが、朝帰りの
新三が登場する少し前に、威勢のいい売り声とともに魚屋が
あらわれるのです。宵越しの銭はもたねえ、新三ですから 
高かろうがためらわず購入。初ガツオ1本3分。

 当時の貨幣はいわば4進法。1両は4分。1分は4朱。
だから1両は16朱。

 かなり大雑把に言って1両は今の6万円くらいとしましょう。

    6萬円×3/4両=4萬5千円。

 お客さん、さっき召し上がったカツオのたたきが
税込み@1050円。安いね。うちは。

 仕入れ値も言っちまいましょ。今朝、築地の魚河岸で
仕入れたんですが、この時期ですから初ガツオじゃありません。
3kgくらいだったかな、6000円の手前。
たたきにして12~15人ぶん。

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●江戸の初カツオ

江戸時代の初カツオが高かったことがわかる話を もうひとつ。

 文化9年(1812)3月25日。旧暦。 
初カツオ1本 2両1分。

文化年間ですから、1両を今の2万円くらいとしてみましょう。

    2万円×2.25両=4萬5千円。
 
 記録があるんです。太田南畝(おおたなんぽ)というひとの
〔壬申掌記(じんしんしょうき)〕。

その日、魚河岸(当時は日本橋)に入ったカツオ、17本。
将軍家お買い上げ6本。3本が料亭八百膳、残りが一般売り。

 このように値のはるカツオも 端午の節句(旧暦5月5日)が
過ぎると、安くなっていきます。

 〔落ちぶれるものは鰹の値段なり〕という、ことわざがあるほど。

 初ガツオもすてがたいけど、脂がのって旨くなるのは 
この後。秋口から出回る戻りガツオ。 その時節に
なりましたら、
またカツオの話で一献といきましょうか。

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【2】きょうの賄い 〔キュウリのたたき〕

 野菜で たたき といえば たたき牛蒡(ゴボウ)ですが、
きょうのはたたき胡瓜(キュウリ)。

●曲がりキュウリでいいですよ。叩いちまうんですから。
塩もみしてから洗い流してください。
 ・縦半分に切る。
 ・ビール瓶やスリコギでたたく。やさしくね。飛び散らぬよう
  布巾などを被せて上からたたいてもいいでしょう。
 ・長さ2~3cmに切る。
 ・漬け汁につけ、冷蔵庫で30分。残ったら明日もたべる。
  つくり置きできるという意味です。
 ・漬け汁:醤油、酢、ごま油、砂糖、唐辛子。

●ネギやショウガのみじん切り、を入れたらなおよし。
 カニほぐし身(缶詰でも何でも)を和えたら さらによし。
 お好きならトウバンジャンを。
 ・私には溶き芥子を添えてください。白髪ネギにしてね。
  よく晒してね。


■次号は
 ◆夏の刺身は 洗いとたたき (続編)をやりましょう。
 
 鯵(アジ)の話まで 行きませんでしたので。

 


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【3】酔中歌(編集後記)
 
 ■♪ 言いだしかねて  1936
I Can't Get Started m:Vermon Duke w:Ira Garshwin

 ■このメールマガジンのタイトルを決めるとき、
いくつか案をつくり、斯界のさる重鎮に相談したんです。

 2,3、やり直し案を出しまして、これなら悪くはない、
という感じでしたので、この題にきめたのでした。

 おフザケみたいで、言いだしかねて お蔵にしてしまった
ものに、こんなのもあります。

 台所、厨(くりや)のことを勝手(かって)ともいいますね。
 それで、『勝手にしやがれ
 ゴダール監督、ベルモンド主演、'59年の映画、
〔勝手にしやがれ〕 から。

 建築の本では、勝手の語源は〔糧(かて)を炊(かし)ぐ場所〕
だからというのが、諸説ある中で 真相に近い、とあります。

 諸説の中にはこういうのも、あります。

 弓道では、弓を支える手を〔押し手〕。弦(つる)を
引っ張る方の手、つまり自由に動かせるほうの手をを 
〔勝手〕、と言うそうですな。

 女性が自由に使えるのが台所。それで勝手と
呼ばれるようになった、と。

♪■邦題、〔言いだしかねて〕は誤訳だそうですね。
  詞の内容と合わないって。
  誤訳なれど名訳。酔いがまわってきたアタシは迷惑。。。。
  おやすみなさい。
  ありがとうございました。

 

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