居酒屋おやじの知ったかぶり・旬ばなしのTOPに戻る

■008号■茄子の鴫焼きと茄子の俗諺

 いらっしゃいませ。今日はご子息とお二人で。お幾つになりました。
えっ56歳? いえ、お父さんの歳ではなく、息子さんのほう。
20歳ですか。いいですねえ、跡取りがいらっしゃいまして。
  『”瓜の蔓に茄子はならぬ”* といったところかな』 
いえいえ、”瓜や茄子はなりなり”* と申します。立派に跡をおつぎになるでしょう。
息子さんも、お父上を見習って修行なさってください。
”親の意見と茄子(なすび)の花は千に一つも仇はない”* と申します。
  それでは、茄子の鴫焼き(ナスのシギやき)でもおつくりしましょうか。

茄子

◆きょうの品書き(目次)◆
--------------------------------------
--------------------------------------
 

【1】茄子の鴫焼き(ナスのシギやき)

 茄子を縦に切った形が、鴫(しぎ)に似ているので、しぎ焼き、と呼ぶ とも言われておりますが、鴫壷焼き(しぎつぼやき)から転じたのが本当の ようです。
 それでは、【茄子のしぎ焼きとは、鴫壷焼のなごりである】と仮説を立てて これを検証してまいりましょう。

 先ず、鴫壷焼き(しぎつぼやき)とはどんな料理だったのか。

・室町時代、天文4年(1535年)「武家調味故実(ぶけちょうみこじつ)」に 「しぎつぼのこと、」云々という記述があります。
 塩漬け茄子の中をくりぬいて、下ごしらえしたしぎの身を射れる。
柿の葉でふたをして、藁(わら)で縛る。石なべに酒を入れて、これを煎る。


・そして、天文19年(1550年)「包丁聞書(ほうちょうききがき)」には、
鴫壷焼と云は、生茄子の上に、枝にて鴫の頭の形を作りて置也。> 柚子味噌にも用(いる)」とありますから、もはや鴫の肉は使わず、 シンボルとして、枝で鴫(シギ)の形を作ったということでしょう。

江戸時代には、現代の茄子のしぎ焼きと大差ない料理となって いたようです。
・「俳諧発句帳」(寛永10年、1633年)にある徳元の句。
       鴫やきや なすびなれども とり肴
・「料理物語」 (寛永20年、1643年著者不明。江戸初期の料理書)
      鴫焼き 茄子(なすび)をゆでよきころにきり串にさし山椒味噌付て焼くなり。
・「佐夜中山集」(寛文4年 、1664年・松江重頼・撰)の句集には、
    鴫やきは かならず秋の 茄子哉 
・さらに、江戸の国学者、喜多村信節(きたむらのぶよ、1784-1856)の  「瓦礫雑考」 (文化14年、1817年)には
  茄子のしぎ焼きというものは、鴫壷焼から転じたのであろう、という意が、記されています。

 もう、決まりですね。
現代の茄子のしぎ焼きは、鴫壷焼のなごりである。】そして、それは 江戸時代に確立された、と。

  ・喜田川守貞が天保8年(1837年)から30年かけて、 著したといわれる「守貞漫稿(もりさだまんこう)」には、
 「京阪ニテナスビノデンガクト云、江戸ニテハナスノシキヤキト云
 (京阪にては茄子の田楽と言い、江戸においては茄子のしぎ焼きと言う。)
と ありますから、室町時代の鴫壷焼から端を発した しぎ焼きですが、 もう、鴫(シギ)はどこかへいってしまいました。

 柚子釜(ゆずかま)と言う料理は鴫壷焼きから発展したものであります。
田楽についてもお話したいと思っておりましたが、長くなりそうですから、 またの機会に譲りましょう。

   『茄子のしぎ焼きだけで、俺たち親子、ここまでおやじの長いウンチクに 付き合ってきたんだ。何か出してくれ。手っ取り早く出来るものを
 茄子の漬物でよろしゅうございますか。
「何も茄子の香の物(なにもなすびの こうのもの)」*です。

このページの目次へ戻る

 

【2】茄子の俗諺

 今日出てまいりました諺の類を整理しておきます。
*1 瓜の蔓に茄子はならぬ
(ウリのつるにナスビはならぬ) 
ウリの蔓(つる)にはウリしかならぬのは当然で、平凡な親からは平凡な子しか生まれないということ。蛙の子は蛙、と同じ。
  反対が「筍の親勝り(タケノコのおやまさり)」や
鳶が鷹を生む(とんびがたかをうむ)」など。
*2「瓜や茄子はなりなり
(ウリやナスはなりなり)
ウリもナスもそれぞれの形があり、人間もそれぞれふさわしい姿、形がある。
*3親の意見と茄子の花は千に一つも仇はない
(おやのいけんとなすびのはなはせんにひとつもあだはない。)
茄子の花は咲けば必ず実を結ぶといわれており、おやの意見も同様、すべてためになる、ということ。
*4何も茄子の香の物
(なにもなすびの こうのもの)(なにもなすびの こうのもの ご馳走はなくても、茄子の漬物があればもてなし出来る、要はおもてなしの心だ、ということ。

◆◆まだまだあります、茄子がらみの俗諺◆◆ 

茄子は友露受けねば千なる
(ナスビはともつゆうけねばせんなる) 
ナスは隣りどうしを離して植えれば、のびのび育っていっぱい実がつく。 近頃のお若い方たち、このように育ったんですな。
一富士二鷹三茄子
(いちふじにたかさんなすび)
これについては、諸説ありまして、別の機会に詳しくお話ししましょう。
小茄子に年の寄ったるが如し
(こなすにとしのよったるがごとし。)
小ナスが古びてしなびれている様。小さいのにひねていることの例え。 いるよね。
茄子苗と女は余らぬ
(なすびなえとおんなはあまらぬ)
ナスはムダ花がなくほとんどが実をつけるから、苗が余る事はない。
女性も、それぞれ縁を得て ふさわしい相手ができ、売れ残ることはない。
昔の話だね。近頃はね、嫁になんかいかねぇよ、て娘、あたしの周りにも。いけねぇだろ
師走筍 寒茄子
(しわすたけのこ かんなすび)
季節はずれに食いたいもの。手に入りにくい珍味を言うときに使う。
いまは何でも一年中あるから、この諺、通用しなくなちっまたのが残念。
秋茄子嫁に食わせて七里追う
(あきなすびよめにくわせてしちりおう)
嫁は「嫁が君」、ネズミのこと。ネズミに食われて七里も追いかけたほど、秋茄子は旨いという事。
  秋茄子は嫁に食わすな
て言うアレ、二説あるのはご存知ですね。
嫁いびり説と子宝気遣い説。これも、近いうちにやりましょう。

このページの目次へ戻る

 

【3】酔中歌(編集後記)

◆◆♪Summertime 1935 (w)Du Heyward (m)George Gershwin
♪Summertime は『ポーギーとベス』の第1幕で若い漁師の妻クララが歌う子守り歌。
『ポーギーとベス』は1935年9月に初演されたオペラ。黒人が主人公であり、黒人だけ出演する作品。(警官役のみ白人)
ビリー・ホリデイの♪Summertime ↓

■あたしの店も、明日から盆休み。
 2つ考えがありましてね、まだ決めかねているのです。

■1つは、仕込み。
 料理の仕込みは、毎日やっていることですが、
少し、まとっまた休みに、いろいろ仕込んでおかねばならぬことあります。
パソコンはまだまだ不得手だし、絵も上達したいし、途中で投げ出してしまった 習い事もありますし、、、これじゃ、ガキのころの夏休みだね。
結局何もしなかった。
■だから、2つ目の考えでいこうかなと。
 何もしない。だらだらすごす。な す が ま ま。

 いづれにしても、毎日、酒を飲むのですが。
 『おやじ、酒なら俺も毎日 付き合うぜ
 おや、まだいらしたんですか。
 息子さんはとうに、おかえりになりましたよ。
 また、ごいっしょに。
 おまちしております。
このページの目次へ戻る

関連コンテンツ

■031号■泥鰌の唄、丸鍋、北斎

  いらっしゃいませ 『おやじ、生きておったか。心配したぞ』 はぁ? 『先日 たか橋の袂で、思いつめた顔をして小名木川(おなぎがわ)を覗きこんでいるおやじを見たんだが』 あの界隈の江戸の・・・

■009号■街道をゆく。テンプラのみち

 今年の夏休みはどこへも行かずじまいでした。のんびりと過ごしました。  昨年夏は 司馬遼太郎の「街道をゆく23『南蛮のみちII』」に触発されてポルトガルを旅してきたのでした。  その『南蛮・・・

■007号■鱧(ハモ)も一期、海老も一期

 きょうは、いい鱧(ハモ)が入っています。 「ハモの落とし」、如何でしょうか。  『いいねえ。暑い夏はあっさりといきたいね。あっさりのなかに、 奥行きがあって、味に深みがある。酸いも甘い・・・

■006号■うなぎ屋になりそこなった話

 お暑い中、有難うございます。 きょうの突き出しは、〔うざく〕です。 はい、うなぎ蒲焼の酢の物でございます。  『夏の土用の時期になると、毎年うなぎが出てくるなんざぁ、  おまえのとこも芸・・・

■005号■水飯ダイエット・告白・おいしい水

いらっしゃいませ  『近頃 メタボといわれているので、ダイエットしようと思っているんだ。 何かよい方法を知らないか』 水飯(すいはん)ダイエット は如何でしょうか。 平安の昔に藤原朝成とい・・・

■004号■夏の刺身は洗いとたたき(続編)

いらっしゃいませ 『旨そうな鯵だな。たたきでもらおうか』  鯵は味がいいからアジというんです。 『おやじ、くだらないダジャレを始めて、すこし酔っているのじゃないのか』   ・・・

■003号■夏の刺身は洗いとたたき (後編)

いらしゃいませ。   『なんか、おすすめの魚とかあります?』    今日はかつおが入っております。   『おっ、初ガツオか、いいすっね。タタキとかできます?』     はい。   ・・・

■002号■夏の刺身は洗いとたたき (前編)

 第2号です。創刊号で、竜田揚げを取り上げたのは、ちと失敗だったかな。 料理で大切なのは季節感ですものね。 それをこの時節に、紅葉の竜田川では、居酒屋のおやじ失格ですね。  きょうは、顔を〔・・・