居酒屋おやじの知ったかぶり・旬ばなしのTOPに戻る

■025号■聖ペテロの魚、その謎

いらっしゃいませ。
今日は 聖ペテロの魚を召し上がっていただきたいとおもいまして。。

『聖ペテロの魚? わからん。 もっと的を射た話をしてくれ』

はい。その「的」をえた魚なのです。

◆きょうの品書き(目次)◆
--------------------------------------
--------------------------------------
  

【1】十二使徒の長、聖ペテロの魚

東京国立近代美術館 では生誕120年を記念して「藤田嗣治展」が開かれています。(2006/5/21まで)
藤田嗣治展
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展
昨年(2005年)のこの時期には、「ジョルジュ・ド・ラ・トゥール展」が国立西洋美術館で開催されていました。
ラ・トゥールはキリストと十二使徒の連作が有名ですが、藤田にも十二使徒を描いた壁画があります。
藤田は晩年キリスト教に帰依し、ランス大聖堂で洗礼を受け、レオナール・フジタとなります。シャンパンで有名な、マム(Mumm)社の出資による礼拝堂、「ノートル=ダム・ドゥ・ラ・ぺ 」に十二使徒のフレスコ画を描きました。1966年のことでした。

十二使徒の長、キリストの最初の弟子として選ばれたのが聖ペテロキリストの死後、福音の宣教に尽力し、初代ローマ教皇となったわけです。
やがては、ローマでネロの迫害により殉教。その殉教の地に建てられたのがヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂。聖ペテロはキリストによってつけられた名で、元はシモンという漁師でした。

「マタイ伝福音書」(17章24?27節)に「貢の銭」という物語があります。

カペナウの町に着いたキリストと弟子たちに、徴税吏は税を要求します。キリストはシモン(ペテロ)に 命じるのです。
 『海に往きて釣り糸をたれ、初めに上がる魚を捕れ、その口を開かば銀貨一つを得ん、それを取りて我と汝とのためにおさめよ』<br> この物語に因んで、聖ペテロと呼ばれる魚があります。
フランス語でサン・ピエール(Saint Pierre)
イタリアではサン・ピエトロ (San Pietro)。<
br> フランス料理でも、イタリア料理でも頻繁に使われている魚です。 この魚には、聖ペテロが触れた指の跡が黒い斑紋として残っているのです。 あれは、銀貨の丸いかたちが魚の表面に現れているのだというお話もありますが。

↓↓↓↓↓
聖ペテロが触れた指の跡が

ね。
『なんでぇ。マトウダイじゃぁねえか』 
ご存知でしたか。斑紋が弓矢の的のようだから、日本では「的鯛(マトウダイ)」。あるいは馬みたいな顔してるから、 「馬頭鯛(マトウダイ)」
ウチの店では、富山から仕入れているので、 「車鯛(クルマダイ)」 。富山ではこう呼ばれています。
刺身、昆布締め、焼、煮、蒸、揚げ、と何でもござれの白身魚。刺身は今日@1260円です。

このページの目次へ戻る
 

【2】謎

マトウダイの英語名は「target dory」とか「John dory」です。「target」はまさに「的」。日本語の的鯛と同じです。
「dory」はマトウダイ科の魚の総称のようですから よしとして「John」のほう。 十二使徒の一人に「聖ヨハネ」がいます。ヨハネの英名がJhon です。やはり元漁師です。

名前はややこしいですね。ヨハネを例に取れば以下のとおりです。
ヘブライ語:ヨーハーナーン(Johanan)
ギリシャ語:ヨハネ(Johannes)
ラテン語 :ヨハネス(Joannes,Johannes)
英語   :ジョン(John)
フランス語:ヨハン(Johan)
スコットランド語:イアン(Ian)
アイルランド語:ショーン(Sean)
私が調べた範囲では、聖ヨハネと的鯛の関連がでてきません。
困った。

このページの目次へ戻る
 

【3】さらに謎が

ギリシャではマトウダイは「聖クリストフォロスの魚」と呼ばれているそうです。またもや「」です。

聖クリストフォロスは救難の聖人とか旅の守護神などとして西欧の人々には親しまれています。芥川龍之介の小説、「きりしとほろ上人伝」(1919年(大正8))でご存知の方もいらっしゃいましょう。
青空文庫http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/79_14954.html

この小説の下敷きはヤコブス・デ・ウォラギネ(1235-98)の「黄金伝説」とされています。クリストフォロスは洗礼を受ける前はレプロブスという名です。この世で最も偉大な主君に仕えようと旅に出ます。
旅の途中で、巡礼者のための川渡しの仕事に従事します。ある日、幼子に川渡しを頼まれ、この子を背負って川に入ります。すると突然水かさは増し、その子は大岩のように重く、まるで「全世界を背負ったよう」です。
幼子はいいます。「あなたは全世界を背負っただけではなく、世界を創造したものも背負ったのです。わたしこそがキリストなのです」

居酒屋おやじのとは違って、芥川の文章はもっと格調高いのですが、 
---------------------------

「さもあらうず。おぬしは今宵と云ふ今宵こそ、
世界の苦しみを身に荷(にな)うた『えす・きりしと』を
負ひないたのぢや。」と、鈴を振るやうな声で申した。
(「現代日本文学大系43芥川龍之介集」筑摩書房)
---------------------------

以後、レプロブスはキリストを師と仰ぎ、名をクリストフォロスに改めるのです。クリストフォロスはギリシャ語で「キリストを背負う者」という意味なのですって。
で、レプロブスは幼子のキリストを背負って川を渡るときに、魚を持っていました。それが的鯛だというのです。あの丸い斑紋はクリストフォロス(レプロブス)の指のあとですって。これが「聖クリストフォロスの魚」のいわれです。

聖ペテロの指跡じゃあなかったのかい

このページの目次へ戻る
 

【4】さらに、さらに謎

マトウダイの学名は ゼウス ファベル(Zeus faber)
そう、女神や人間の女との間に、ヘラクレスなど多数の子供たちをもうけたことになっている、ギリシア神話の最高神ゼウス。ゼウスはローマ神話ではユピテル(ジュピター) (Zeus faber) またしても偉大な名がマトウダイに。

生物の学名は世界共通で、ラテン語あるいはラテン語に準ずる語で表記されます。Zeusが属名で、faberが種小名です。姓と名のようなものでしょう。
ファベル(faber)はラテン語で職人という意味らしいのですが。この魚の 学名にゼウスの名が なぜ冠されているのかがわかりません

このページの目次へ戻る
 

【5】さらに、さらに、さらに、、

先ほどのマタイの福音書のところで出てきた町、「カペナウ」。
ガリラヤ湖 この町の南にあるガリラヤ湖でペテロは件の魚を釣り上げるわけですね。
でもね、ネットで調べてみたらガリラヤ湖は淡水湖でした。

--------------------------------- 
伝統的には「ガリラヤの海」など「海」と呼ばれることもあったが、純粋な淡水湖である。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%83%A9%E3%83%A4%E6%B9%96
---------------------------------  

ガリラヤ湖畔で聖ペテロの魚を そして、ヤコブス・デ・ウォラギネの「黄金伝説」でレプロブスが件の魚を手にしていたのは、川の中でした。

ありえねぇ〜』 (注・当世若者言葉) 

マトウダイは海水魚ですもの。
だけどね、イスラエルへのパック旅行の案内などでは「昼食はガリラヤ湖畔のレストランで聖ペテロの魚をどうぞ」なんて書いてあるよ。

これは「ティラピア」という魚で、彼の地では、これが「聖ペテロの魚」なんだって。


↓↓↓wikipedia↓↓↓

ティラピア

http://en.wikipedia.org/wiki/Tilapia

似てねぇ〜、 
マトウダイに、似てもに似付かねえやぃ

ティラピアという魚は「カワスズメ」の一種で、オスは口の中に卵を銜(くわ)えて孵化させるのだそうです。やがて、孵化された稚魚は口から外へ泳ぎ出る、この様を口から銀貨を吐き出す魚になぞらえているのかも

このページの目次へ戻る
 

【6】酔中花(あとがき)

■聖ヨハネと的鯛の関連、そして学名のゼウス、調べてみたのですけどねえ。言い訳するのじゃございませんが、時間切れ。 そろそろ、わたしもお酒の時間ですから。

■♪Don't Explain  (邦題:言い訳しないで)
1946年  (w)Arthur Herzog Jr.(m)Billie Holiday
1944年にビリー・ホリディ作曲。当時の夫・ジミー・モンローの浮気がモチーフになっているのだとか。

↓↓Don't Explain Billie Holiday↓↓
Don't Explain Billie Holiday

↓↓こちらはヘレン・メリルの歌唱で,Helen Merrill - Don't Explain↓↓
Helen Merrill - Don't Explain

棘にご注意 ■的鯛をおろすときには鋭いヒレ骨と棘に気をつけてください。
■調理のときは、火を入れすぎぬよう、注意なさってください。ムニエルでもグリルでも 過度に火が入ると、少しパサつきます。
■初めてのお客様、有難うございました。 今日のお味は、、、、 少し濃すぎましたか。申し訳ございません。

このページの目次へ戻る
関連コンテンツ

■022号■蛤(ハマグリ)今は昔

いらしゃいませ。 ♪イキナクロベイ ミコシノォマァツニィ〜  『おやじ、さっきから小声で唸っているがどうしたんだい』 唄っているんですよ、「お富さん」 ガキの頃、意味・・・

■035号■桜鯛・さくらの物語

いらっしゃいませ。桜鯛のいいのが入っています。  『うまそうだ。匂うがごとき 桜鯛だな。』 え?匂いますか。 ◆きょうの品書き(目次)◆ --------------・・・

■030号■さより お姉さまに似てる

お久しぶり。やっと あえましたね。 で、きょうは 「あえもの」 出会いの細魚(サヨリ)に独活(ウド)と蕨(ワラビ)を黄身酢で和えてみました。 召し上がってください。 ■きょ・・・

■033号■春告魚・春風の板前

■ーーー金曜、夜8時半 調理場にてーーー  板前さん。3人のお客様が煮魚をご所望だ。メバルの残りは何本あったかな。    『半身しかのこっていません』  そんな事はないだろう。先・・・