■第012号■サンマのワタ

 サンマ召し上がりましたか。真夏から出ていましたものね。「秋刀魚」

じゃなくて「夏刀魚」ですね。

 築地の魚河岸にサンマが並んだのが今年(2005年)は7月の11日、その日は奇しくも「世界人口デー」。1987年のこの日に地球の人口ガ50億人を超えたことから。

1999年には60億を超えました。2050年には90億を超えると予測されています。サンマの話とは関係なかったね。サンマの全国漁獲量はここ数年20万トンを下がる事はないのです。

 今年は更にサンマ豊漁のようで、9月にはいって一時 禁漁にさえなって

しまいました。値の下がりすぎを抑えるため。

 この時期ますます脂がのってきて、安くてうまい秋刀魚の塩焼き。当店で

いかがですか。 たっぷりの大根おろしにスダチを添えて。

 

 でもね、塩焼きでもハラワタを召し上がらない方が多いんです。

うまいんですがねえ。

 サンマのハラワタには鱗(ウロコ)がはいっていることが多いので

舌に当たるのが嫌だという方もいらっしゃいます。

 ーサンマにウロコあったの。ーー なんて仰る 坊ちゃん嬢ちゃん

いますね。あれ、 あなた様も。

 無理もございません。魚屋さんで売っているサンマのウロコはほとんど

取れていますもの。これはね「棒受け網漁」という漁法で獲るからなのです。

 サンマは走光性が強い魚です。夜間に集魚灯を灯して海面下から網を一挙に

持ち上げて獲る、この漁法は効率のよいもので、漁獲量の95%はこれによる

ものだそうです。

 効率はよいのですが、大量のサンマが擦れあうのですから ウロコは

剥がれます。そしてそれを飲んでしまうわけです。

 

 近頃は、サンマの塩焼き より 刺身や 〆サンマのほうが受けが

いいようですな。マリネーにしてもイケますし。

 これらは3枚におろすわけですから、ハラワタを使わない。それが

いいのでしょうか。

 ですが、今日は、サンマのハラワタを食していただきたい。ひとつは

「焼」で、もうひとつは 「煮」で。

 昔からある調理法ですが、塩焼きではハラワタを召し上がらない方も、

おかわりを所望なさるほどの美味しさ。



◆きょうの品書き(目次)◆

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【1】秋刀魚共肝焼き

【2】秋刀魚有馬煮

【3】「秋刀魚の歌」佐藤春夫

【4】酔中歌(編集後記)

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【1】秋刀魚共肝焼き

 和食の料理用語で「共(とも)」がつきますと、ひとつの食材の

異なる部分をいっしょに調理したものです。

 たとえば

 「共和え(ともあえ)」。カワハギやアンコウなどでおなじみ。

魚介類の身を具として、和え衣はその肝を使います。

 「共あん」は鶏肉の料理などよくあります。鶏ひき肉で作った

そぼろあん を蒸した鶏肉にかけるものですね。

 アワビやアンコウは肝をすり流して椀種(わんだね)にする「共汁」や

肝を酢の物に用いた「共酢和え」なんてのもあります。

 時には、「共」を「友」という字をあてたりします。

★★蛍光★とも かく、肝がおいしい魚介はそれを使わない手はありません。

 では、さんまの共肝焼き。

1.サンマを3枚におろす。(時間あれば薄塩をあて、1時間置く。)

2.内臓を包丁で細かく叩く。

3.酒、ミリン、醤油を同割あわせた中に、叩いた内蔵をいれ、3枚に

おろした サンマを漬け込む。30分くらい。お急ぎの方は10分でも。

4.漬けたサンマに串を打ち、漬け込んだ汁をかけながら両面焼く。

 焦げやすいから、目を離さずに。

 ◎おもてなしには、「利休焼き」になさったらいかがでしょうか。

和食で、「利休」あるいは「利久」とついたら、胡麻を使った料理です。

「利休揚げ」、「利休煮」、「利休焼き」、「利休仕立て」などすべて

胡麻を使ったもの。千利休が胡麻を好んで使ったから、といわれています。

「利久」というのは「休」の字を嫌って、あるいはしゃれたおつもりで

つけたんでしょう。

 で、サンマの利休焼き。

さっきの1.〜3.までは同じ。漬け込んだサンマは煎った白ゴマをまぶして

表面が乾くまで干す。それから串を打って焼く。白ゴマを焦がしては

いけませんよ。あぶる程度に。

 上級者は 焼くときに両づま折りにしたり、片身ずつ結んでみたりして

盛り栄えを考えてください。

 

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【2】秋刀魚有馬煮

 「有馬煮」というのは「山椒煮」のことです。料理で「有馬」とつけば

山椒(さんしょう)の実をつかったものです。

 兵庫県の有馬温泉の「有馬」。山椒の実の産地で有名ですから。

山椒煮でよいところを有馬煮などと名付けるなんぞ ちょっと気取っている

のでは ★★蛍光★ありま せぬか。

 で、作り方。

1.サンマの頭とシッポを切り落とす。2cmか2.5cm位の筒切り。内臓を

 つけたままです。

2.それをザルに入れて、塩を振り20分置く。

3.それに熱湯をかけて冷水にとり、ザルに再びあげる。

 軽く拭いてくださいね。

4.鍋に上記のサンマを入れ、たっぷりの水と酒(同量)を入れる。

 落し蓋をして強火。

5.沸騰したら砂糖をいれ、さらに醤油を加えながら煮詰めていく。

 煮詰まってきたらミリンを加えてツヤを出す。あれば たまり醤油も

 少し。

6.さらに煮汁をかけながら煮詰めて、山椒の実をいれたら

 ひと煮立ち。山椒の実は最後。煮過ぎるとニガイので。

 以上が教科書的な作り方。修行中の方は一度はきちんと作ることを

おススメします。山椒の実は市販の瓶詰めでいいでしょう。前にも

お話しましたが私のところでは毎年、一年分をつくり置きしております。

 私は時間がないので簡単にいきます。年寄りですから、残り時間が

少ないですし、夜9時半になったら、酒の時間ですし。

 サンマは薄塩をして両面とも焼きます。

 冷めてから筒切りにします。

 煮汁をあわせて煮付けます。最後にミリン、タマリ醤油、実山椒を入れ

 味を調えておわり。

 圧力鍋を使えばもっと早く出来ますね。骨も柔らかく いっしょに

召し上がってください。

 冷めてもうまいから、あたしの店では お通しに使ったりしています。


【3】「秋刀魚の歌」佐藤春夫

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あはれ

秋風よ

情(こころ)あらば伝へてよ

——男ありて

今日の夕餉に ひとり

さんまを食ひて

思ひにふける と。

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と、始まるのは佐藤春夫(1892-1964)の有名な詩「秋刀魚の歌」です。

詩の終わりは↓です。

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さんま、さんま、

さんま苦いか塩つぱいか。

そが上に熱き涙をしたたらせて

さんまを食ふはいづこの里のならひぞや。

あはれ

げにそは問はまほしくをかし。

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全文⇒http://uraaozora.jpn.org/posato3.html

 この詩は大正12年(1922)に発表され、沢山の人々に愛唱されました。

 春夫が谷崎潤一郎夫人、千代子に恋するようになったのは大正10年(29歳)のことです。谷崎は許さず、はれて ふたりが結婚するのは昭和5年です。春夫は38歳になっていました。そのような渦中にあった時の詩です。

 谷崎潤一郎の家で、その妻子とさんまを食べている時の情景にたくして、春夫は自身の心中を詠っているのでしょう。

 おとこの哀切と、激情を「秋刀魚の歌」から読み取っていただきたい、と願う居酒屋おやじであります。

 ところで、佐藤春夫は下戸だったそうです。彼の詩には酒を題材としたものは無いとご本人が書いています。(『詩文半世紀』昭和38年)小説や随筆には酒が出てくるものがありますが、酒飲みを否定的に書いています。

 酒神や酒仙人などと呼ばれる李白を描いた『李太白(りたいはく)』という作品があります。大正7年(1918年)谷崎潤一郎の推薦を受けて『中央公論』に掲載されました。

李白は酔って舟に乗り、水面に映る月を捉えようとして溺死したといわれています。この伝説は一般に、風流を解する詩人故の死として捉えられる事が多いのです。しかし春夫は李白が水底に落ちたのは天罰であり、小魚に成り下がった「仙界の軽佻児」と表現しています。酒飲みがお嫌いだったようですね。

 差し詰めあたしなんざぁ「旋回の軽佻爺」ですな。いつも酔いで頭の中ぐるぐる廻っていますもの。


【4】酔中歌(編集後記)

♪Smoke Gets In Your Eyes  (邦題:煙が目にしみる)1933年

  W:Otto A. Harbach , M:Jerome Kern

 「煙が目にしみる」のはタバコの煙ではありません。サンマを焼いている煙でもありません。恋の真っ只中にいるとわからぬものなのですが、恋の炎が消えてしまった今、煙が目に入ってしみる、とうたう失恋の歌です。

 1933年のミュージカル「ロバータ」に使われた曲です。1958年にポップ・コーラスグループの「プラターズ」がリヴァイヴァル・ヒットさせたことにより、世界中で有名になりました。ジャンルを越えてスタンダード・ナンバーとして唄われ続けています。。

 ジャズ・ヴォーカルでも実に多くの男女が歌っています。サラ・ヴォーンはいかが。

■魚の焼き方は「強火の遠火」が基本、と昔からいわれてきました。

たんぱく質を閉じ込め、うま味を逃さないためには強火ですばやくという事です。

ご家庭のガスコンロは近火のものが多いですね。焼き網をガスコンロの火から距離をおくよう、レンガを使ったり、五徳を2重にするなどいろいろ工夫をなさっています。焼き網を熱したら酢かサラダ油を刷毛で塗ってから、サンマを乗せて焼きましょう。

煙が目にしみますからご注意ください。

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